アトラスコプコ・グループは、総売上約1兆600億円を誇るグローバルカンパニーとして、コンプレッサ、土木鉱山機械、建設機械、産業機器の4つの事業エリアを展開しています。毎年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で発表される「グローバル100・世界で最も持続可能な100社」にも5年連続で選ばれており、2012年の発表では10位にランクインしています。
アトラスコプコは、日本で事業を開始してすでに100年の歴史を持ち、コンプレッサ、土木鉱山機械、産業用工具・設備の機器選定・導入からアフターサービスに至る一連のソリューションを提供しています。今回お話を伺ったサーフェスドリリング・ディビジョンは、2004年にグループに加わり、スウェーデン、インド、中国、日本、そしてオーストリアに製造施設を持ち、世界約60のカスタマーセンターで販売を行っています。その中で、日本における出荷品質、仕入れ部品の品質管理、そしてISO9001の事務局として、社内外のあらゆる品質管理についてサポートしている品質管理部の森正美部長に、「戦略をいかに実行するか」についてお話を伺いました。
![]() |
サーフェスドリリング・ディビジョン横浜工場 品質管理部 部長 森 正美 様 |
現在、遅行指標の達成度の評価を含めて、1年がちょうど終わったところです。その中でいくつか反省点があります。
そのひとつには、すべてスコアボードとしてグラフ化できていたわけではなかった点があげられます。何をいつまでに、の指標だけでは、日々の評価がなかなか難しかったりします。たとえば、何か手順書を作るといった先行指標としての目標を作成した場合、先行指標をやったかやらないかの評価になってしまい、本来の目的に近づいているのか、遅行指標を動かす活動ができたかといった、本来の評価ができなくなってしまいます。
遅行指標はもちろん重要で、その遅行指標を達成するためにいくつかのアクティビティを考えるわけですが、その目標の本来の目的を明確にし、遅行指標と先行指標がどのように結びついて、どのように連動し、関連しているかを認識した上で行わないといけません。
また、期初に12ヶ月の遅行指標を掲げても、リーマンショックや欧州危機のような環境変化が起きた場合、目標に対する意識が全く変わることがあります。本当はそれでも遅行指標は生きているわけで、先行指標を柔軟に変化対応させないといけません。そうしないと遅行指標がどこかにいってしまいます。このあたりが1年たって感じたことです。
私たちの部門は、製品の出荷に関する責任を持ち、検査を行なっています。ただしこの工場ではアッセンブルを行なっていますので、受け入れ部品の品質管理も行なっています。受け入れ部品に関しては、基本的にJust in time方式ですから、全数検品をするのではなくサプライヤーサイドで設定された検査項目をクリアしたものが納品されることが基本です。ですから、サプライヤーに対して検査項目の指導や管理も行なっています。
また、社内ではISO9001の活動を行なっていますので、社内での品質管理の指導も行なっています。
また、私たちの所属部門は現在世界に5つの工場があり、さまざまなAudit(KPI項目)があります。製品の不良率、発生率、クレーム率、出荷に関することなど、各工場間の比較のものもあれば、日本固有のものもあります。
目標はグラフ化し、月次の数字、12ヶ月累積アベレージ、最終ターゲット、この3つの数値を常においかけています。製品によってかなり数値は変動するので、12ヶ月累積アベレージを注視しています。
目標管理は以前から存在していますし、どんな企業でも目標はあります。目標のない企業などないと言ってもいいでしょう。問題は、その目標に向かって、日々のアクティビティがどうなっているのか、そしてどのように評価していくのかということです。そうしないと、目標が名目的になってしまい、目標に対して「どうしてもやり遂げる」というコミットは生まれにくくなります。
それは先程も言いましたが、目標は立てても環境は必ず変化します。環境が変わったから遅行指標が達成できなくなったと考えるのではなく、遅行指標を達成するために、どのようにその変化に対応して先行指標を変え、日々のアクティビティをタイムリーに変えていくかを日々考えていかなければなりません。
どんな環境変化があっても、目標を真正面に捉えて、先行指標を変えながら目標に対して向かっていかなければなりません。
Wigセッションは短時間ですが毎週行いますから、その場を使って小さな環境変化を感じとることができます。簡単なことなのですが、それをやるかやらないかで大きな違いとなります。
環境変化によって目標が達成できない場合もあるかもしれませんが、それでも目標は目標としてどうしたら最大限に近づくことができるかを考えることが必要です。先行指標を変え、どのように対処したか、そのあたりも評価に加えるようにしています。
私たちも環境変化によってアクティビティそのものが大きく変わることがあります。たとえば、倉庫費用を圧縮するという遅行指標があったとします。しかし、世界的な環境変化によって受注が急激に動き、圧縮どころか増加に転じることが確実になってしまうことがあります。その場合、私たちがすべきことは、いかに倉庫費用の増大幅を抑えていくかという活動になります。以前とはまったく異なる活動になるわけです。
一方で、設定した先行指標が本当に遅行指標を動かすものになっているのかどうか、先行指標を達成しても遅行指標が動かない場合はなかったでしょうか。
もちろん、そういうこともあります。だからこそ遅行指標を見据えながら、先行指標を少しずつ変化させていくことが必要です。それはWigセッションを行なっている中で出てきます。1年目よりは2年目というように、継続的に続けていくことが重要ではないでしょうか。
また、そうした変化は一瞬で起こるわけではありません。少しずつ変化します。ですから、日々の小さな変化を見過ごさず、少しずつ先行指標やアクティビティを変えて行くことが必要です。
最初のころはなかなか全員から意見が出ませんでした。リード役が必要でした。しかし、誰かが模範になってくれれば、アイデアや意見は出るようになってきます。ある程度の慣れや回数、考え方の定着は必要です。
それまでは、単にタスクを計画し管理するという状態でしたが、毎週、活動の目的や目標を振り返ることができるようになったことがよかったという声も出ています。また、周囲の人たちの仕事がよくわかり、仕事の透明度が上がったとの声も届いています。
Wigセッションでは、定期的にフリーディスカッションの時間も設けるようにしています。定期的に集まってメンバー間でディスカッションをすることも重要だと思っています。
部門間の正確な比較をしたわけではありませんが、アクティビティの結果が数値化され、スコアボード化され、自分の行動が遅行指標を動かすことが分かったチームは、活動が活発化したと感じています。たとえグラフが逆向きになったとしても、目標に真正面から取り組むことができると思います。あるとき、スコアが大きく悪くなったことがあったのですが、それは周知の上のことでした。そのときは初めて他国から部品を調達し、ある程度の数値の悪化を予想していたのです。その事実をグラフ化し明確にすることで、何をすればいいのかをきちんと考えることができます。
メンバーによっては、同じグラフを見ているのに、異なる受け止め方をします。一見分からないような変化でも小さな変化に気づき、的確な分析ができる人とできない人がいます。
そうした小さな変化に気づき、的確な判断ができるようになるには、常日頃からすべての状況を客観的に見て、感じ取る力を養わなければなりません。先行指標をきちんとグラフ化して、Wigセッションを回せるようになった昨年後半から徐々にできるようになってきました。
そういう意味では、Wigセッションというのは、毎週目標とアクティビティを振り返るいい機会ですから、その場で変化をつかみ、アクティビティを対応させていくことができます。
いくつかありますが、個人の目標、取り組み内容、そして評価がきちんと連動し、個人の取り組みそのものや日々のアクティビティが個人の目標管理、評価にも重要だということをさらに意識付けしなければなりません。
先行指標の捉え方はさらに重要です。先行指標が本当に遅行指標にあっているのかも再検討しなければならないでしょうし、先行指標が数値化され、グラフ化されることも必要です。
また、周囲との情報共有も大きなテーマです。私たちの事業部は世界に5つの工場がありますから、それぞれの国の目標をイントラネットで見ることができます。他国の状況を知ることも自分たちの目標達成に非常に役に立ちます。余談ですが、昨年秋に各国のマネージャーが集まったときに私たちの取り組みに非常に興味を持ち、資料を見せてほしいと言われました。
さらにこれが一番重要かもしれませんが、目標は一人の力で達成できるものではありません。私たち品質管理部門にしても、設計部門、製造部門、購買部門の協力なくして目標を達成することなどできません。他部門同士でお互いの目標を知り、部内だけに留まらず、自ら働きかけて、協力を仰ぐことが必要です。他部門のミーティングに参加しなければならないこともあるでしょう。
そのためには、どのように他部門に働きかければ自分たちの目標が達成できるのかを考え、実行する必要があります。それなくして本当のゴールに到達することはできないでしょう。
社 名 | アトラスコプコ株式会社 【Atlas Copco KK】 |
---|---|
本社所在地 | 〒105-0014 東京都港区芝2-13-4 住友不動産芝ビル4号館 |
設 立 | 1979年 (昭和54年) 6月 |
資本金 | 3億7,500万円 |
従業員数 | 316名 |
(2012年3月現在) |